研究活動
関西医科大学形成外科でおこなっている研究内容を紹介します。
1:自己多血小板血漿(PRP)の応用による創傷治癒と再生の促進の研究
採血した自己の全血から一定の方式に従い血小板を濃縮し、活性化させることにより、本人由来の多種多量の増殖因子(PDGF、TGF-β、VEGF、EGFなど)を得ることができます。この増殖因子を、創傷や再生を目指す部位に付与したり、培養細胞、幹細胞とともに用いたりすることで、本来の創傷治癒や組織再生、細胞増殖を大いに促進することを可能としています。私たちは、このPRPの組織再生の効果とそのメカニズムを検証する培養実験、動物実験をすすめ、その創傷治癒効果を検討してきました。
現在、慢性創傷(褥瘡、難治性潰瘍)を主な対象とし、極めて高い有効性を得ていますが、このPRPはすべての創傷や手術や組織の不利な箇所、抗加齢など広い医療分野で有効性が考えられ、今後発展的応用を進める方針です。
2:骨形成タンパク(BMP)の応用による骨・軟骨再生の研究
骨形成タンパク(BMP)は、軟部組織内に埋入すると骨や軟骨を再生させる骨誘導能を持つ増殖因子です。これを用いることにより骨折や骨の欠損部や骨の増量を目指したい箇所に付与、注入することで、骨移植や骨延長を行うことなく、場面によっては手術をすることなく骨折治療や骨再建や再生を行うことができます。私たちは、ラット下腿筋肉内にコラーゲンとBMPを埋入するモデルを用いて、骨再生能の検討をおこなってきました。このBMPを臨床応用することができれば、従来の骨移植術で生じていた供与部の侵襲は不要となり、自由度の高い骨性再建が実現できると考えています。
3:無細胞化処理により得られる足場の再生への応用
再生医療の基本は、足場材料、細胞、細胞成長因子を組み合わせて三次元組織を再生されることです。しかし、組織を再生させる上で最も問題となっているのは細胞培養技術ではなく、適切な足場材料がないことです。皮膚再生に関しても、コラーゲンなどの天然高分子や合成高分子を用いた足場材料がありますが正常の皮膚(真皮)に近い再生はまだまだ出来ていません。これを解決する方法として、患者皮膚を再利用することを考えています。例えば、腫瘍細胞を含む皮膚組織から腫瘍細胞を取り除き、残った組織に適切な培養細胞を組み込めば正常に近い皮膚の再生が可能になると考えています。このような無細胞化技術は現在、皮膚以外の組織再生でも注目を集めています。現在、組織を傷害する可能性がある化学処理を行わずに圧力で無細胞化する方法の検討を行っています。皮膚分野のみならず他の組織再生にも応用可能な技術であり、臨床応用への道筋をつけることを目標としています。
4:自己脂肪由来幹細胞を併用した遊離脂肪移植による組織再生の研究
近年、脂肪組織の中にも脂肪組織由来幹細胞という体性幹細胞が存在することが明らかになり、優れた分化能が確認されています。これは腹部の吸引脂肪により侵襲が少なく簡便に採取、調整することができます。私たちは、ヒト腹部脂肪組織より脂肪組織由来幹細胞の分離培養と機能を検証する実験系を確立し、各種組織再生を実現してきました。この自己脂肪由来幹細胞を応用した再生医療、とくに新規の乳房再建の開発を目指しています。すでに遊離脂肪組織とともに脂肪組織由来幹細胞を移植すれば、併用した遊離脂肪移植により、移植した脂肪組織の吸収量を減少させ再生脂肪組織のボリューム維持できる結果を得ています。今後、移植幹細胞と再生組織の生着メカニズムを明らかにし、効率的な細胞移植法の開発により、侵襲や変形が少なく、自己の組織により効率の良い乳房再建がおこなえ、患者のQOLが格段に向上することを目指しています。
5:電圧負荷式冷蔵庫(氷感庫)による組織保存の研究
近年、切断四肢(指趾)にはマイクロサージャリーの技術を用いて血管吻合を行い、血行再開により再接着し救肢(指趾)しています。再接着までの間、断端四肢(指趾)は2~4℃の低温保存を要し、再接着可能な24時間以内の緊急手術が必要となる大きな制約があります。これに対し、マイナス温度で凍結しない保存庫として新規開発された電圧負荷式冷蔵庫(氷感庫)を用いることで、切断四肢(指趾)を凍結させず組織の代謝を下げて保存時間を延長でき、日勤帯の病院や医師の落ち着いた対応ができます。本研究は、電圧負荷式冷蔵庫による切断四肢(指趾)保存延長の可能性を明らかにすることをめざしています。また、組織の保存が有効であることの実証を進めると共に、他の移植臓器や血液、医療材料などの長期保存も課題としています。