関西医科大学 形成外科学講座

Kansai Medical University, Dept. of Plastic and Reconstructive Surgery

リンパ浮腫

初めて受診される方へ

初診当日からリンパ浮腫診断、手術のための検査が可能です

ICGリンパ管造影検査を受けて頂ければ、リンパ浮腫の重症度を診断出来ます。さらに、リンパ管エコーで拡張したリンパ管と静脈の位置を確認して、リンパ管吻合手術(LVA手術)の計画を立てることが可能です。
ただし、手術の効果を最大限にするために、複合的理学療法(圧迫、運動、ドレナージ、スキンケア)等も並行して行う必要があります。当院では、こちらは緩和ケア科と連携しておこなっています。

より低侵襲な手術が可能です

リンパ管エコーで精細な評価を術前に行うことにより、最小限の傷でLVA手術が行えます。他院で手術困難と判断された方でも、エコーで確認すると手術が可能な場合がありますので、一度ご相談ください。

日帰り局所麻酔もしくは、入院全身麻酔でLVA手術を受けていただくことが可能です

患者さんの日常生活を妨げずに、日帰り局所麻酔下での手術を行うことが可能です。一方で、手術中の安静が困難な場合などには、入院全身麻酔下での手術も行っています。
▶ リンパ浮腫とは
リンパ浮腫とは、体内のリンパ液の流れが障害され、腕や脚などにむくみ(浮腫)が生じる状態です。原因には、生まれつきリンパ管・リンパ節の発育異常による原発性リンパ浮腫と、がんの手術でリンパ節の切除や、放射線治療を行うことでリンパの流れが悪くなる続発性リンパ浮腫があります。

リンパ浮腫の典型的な症状は、皮膚の色が変わらず痛みの少ないむくみで、手術直後から発生する場合もあれば、数年経ってから遅れて出現する場合もあります。適切な治療をせず放置すると、蜂窩織炎を繰り返す場合や、象の皮膚のように硬く肥厚する象皮症にまで悪化し、日常生活に支障をきたしてQOL(生活の質)が低下する恐れがあります。
▶ 当院で行う検査・診断
【ICG蛍光リンパ管造影】
インドシアニングリーン(ICG)という蛍光色素を患肢に少量注射し、赤外線カメラでリンパの流れをリアルタイムに可視化する方法です。ICG造影により機能しているリンパ管の走行を皮膚上にマーキングでき、リンパ管静脈吻合術(LVA)の手術計画に役立てます。

【高周波エコー】
当院で採用している高周波超音波装置(高周波エコー)では、リンパ液が貯留している部位を確認するとともに、リンパ浮腫の進行に伴うリンパ管の変性や拡張したリンパ管の位置を把握します。

これらの検査によりリンパ浮腫の重症度や残存するリンパ流の状態を把握し、適切な治療方針を立てています。
▶ 治療について
保存的治療(複合的理学療法)と外科的治療(リンパ管静脈吻合術)を組み合わせて治療を行っています。
複合的理学療法
リンパ浮腫に対する基本の治療は、複合的理学療法(Complex Physical Therapy: CPT)と呼ばれる保存的治療です。次の4つの主要要素を組み合わせて実施し、むくみの軽減と進行抑制を図ります。
  • スキンケア: 皮膚を清潔に保ち保湿を行うことで、感染や炎症を予防します。
  • リンパドレナージ: 専門のセラピストや看護師によるリンパドレナージで、滞ったリンパ液を流れやすくします。優しいマッサージでリンパ液を健常な部位へ誘導し、浮腫を和らげます。
  • 圧迫療法: 弾性包帯や弾性ストッキング・スリーブを用いて患肢を圧迫し、リンパ液の過剰な貯留を防ぎ、リンパ液の還流を促進します。
  • 運動療法: 圧迫下での適度な運動を行い、筋肉の収縮によるポンプ作用を利用してリンパ液の流れを助けます。
複合的理学療法はこれらを患者さんの症状に応じて組み合わせて行い、さらにセルフケア指導も行います。
リンパ管静脈吻合術(LVA)
リンパ液の“渋滞”に対して “迂回路”を構築することで、 “渋滞”を緩和し、リンパ浮腫の症状を改善させる手術。
リンパ浮腫に対する外科的アプローチとして、当院では**リンパ管静脈吻合術(LVA)**を積極的に行っています。LVAはリンパ浮腫の患部で皮下にある細いリンパ管と静脈を見つけ出し、顕微鏡下でそれらを直接つなぎ合わせる手術です。余分なリンパ液は心臓への新たな道を通り、リンパ液のうっ滞そのものを改善する根本的な治療効果が得られます。保険適用の手術であり、患者さんの経済的負担も公的医療保険でカバーされます。

【LVA手術のイメージ】

  • 1. 本来の抹消組織から心臓への循環
    リンパ液:リンパ管の中を通って末梢から心臓へ流れる
    静脈血:静脈の中を通って心臓へ流れる
  • 2. リンパ浮腫の状態
    リンパ節の切除や、放射線治療によってリンパの流れが阻害される
    ⇒リンパ液がスムーズに心臓へ流れなくなる
手術で主要なリンパ節を切除するとリンパ液が行き場を失い、リンパ管に圧がかかります。圧がかかったリンパ管は、先をつまんだホースのようにパンパンに拡張し、負担がかかった状態が継続すると徐々に機能が低下していってしまします。その結果として、リンパ液が十分流れず、組織中に滞って患肢にむくみ(リンパ浮腫)が生じます。この状態では“渋滞”が起きているため、感染や炎症も発生しやすくなります。
  • 3. LVA手術
    静脈とリンパ管が近くにある部位(エコーで術前に確認)で皮膚切開すると・・・脂肪に包まれた静脈と拡張したリンパ管が確認できる
  • 4. リンパ管を静脈に吻合する(新しい帰り道を作る)
    リンパ液がリンパ管から静脈へ流れ、静脈血とともに心臓へ流れる
“迂回路”を構築して渋滞を解します。 リンパ管と静脈を吻合し迂回路を作ると、リンパ液は静脈側へと流出できるようになります。その結果、 “渋滞”が緩和されリンパ浮腫の症状改善が期待できます。
LVA動画

従来のLVA手術と当院の新しい取り組み

リンパ管と静脈は直径0.5mm程度と極めて細く、従来のLVA手術ではICG造影でリンパ管をマーキングし、手探りで付近の小静脈を探索しながら複数箇所を吻合していました。しかし、当院では高周波エコー(図1)による術前評価を導入し、手術前に適切な吻合候補となるリンパ管と静脈のペアを詳細にマッピングしています。具体的には、ICG蛍光リンパ造影管でリンパ管の流れが破綻している部位の近傍を高周波エコーで確認し、リンパ管の走行と質の診断、リンパ管のバイパス路として吻合に値する細静脈の走行や直径を確認します。(図2,3、エコー動画)

この方法により、必要最小限の切開で最大の効果を上げることが可能になりました。術前に画像診断で「当たり」をつけておくことで、無駄のない手術ができるため手術時間も大幅に短縮され、傷の大きさや数も減らすことができています。リンパ管や静脈の状態が悪く難治とされる重症例でも、超音波で健全な吻合部位を見つけ出せる可能性が高まり、従来のICG蛍光リンパ管造影のみではLVA手術が困難であった方でも手術が可能です

  • 図1

  • 図2

  • 図3 動画のシェーマ
エコー動画

手術の方法・麻酔と入院について

LVA手術は顕微鏡下で行う繊細な手術ですが、侵襲は小さく安全性の高い治療です。局所麻酔で行える低侵襲手術のため、患者さんの体への負担はとても少なく、手術時間も比較的短時間(約2〜3時間)で済みます。切開創は一箇所あたりわずか1.5〜3cmほどで、傷跡も小さく抑えられます。手術直後から歩行や食事摂取も可能で、翌日には患肢の圧迫療法を再開できます。これにより、手術と保存療法の相乗効果でむくみのさらなる軽減が期待できます。

当院では全身麻酔による入院手術と局所麻酔による日帰り手術の両方に対応しており、患者さんの症状や希望に応じて選択できます。日常生活を阻害することがないよう、局所麻酔下の日帰り手術を行えます。一方、手術中の安静が困難な場合や不安などから、短期間の入院の上で全身麻酔下に行うことも可能です。いずれの場合も手術当日からご自身で身の回りの動作が可能になり、早期に日常生活へ復帰できます。

チーム医療と当院の強み

リンパ浮腫の治療には、複数分野の連携が不可欠です。当院では緩和ケア科とも協力し、リンパ浮腫患者さんに対する包括的なチーム医療体制を整えています。複合的理学療法の指導から手術適応の判断、手術後のケアまで一貫して行える体制が整っており、患者さんの身体面・精神面の両方を支える医療を提供しています。

また、当院形成外科には**「乳房再建・リンパ浮腫外来」**という専門外来を設置し、乳がん術後のリンパ浮腫を含めた上下肢のリンパ浮腫治療を行っています。超高周波エコー装置と高倍率手術用顕微鏡などの最新機器を備え、精度の高い検査・手術を実践している点は当院の大きな強みです。

当院のリンパ浮腫治療ページをご覧の患者さんへ―

リンパ浮腫はひとたび発症すると、長く付き合っていく必要がある疾患の一つですが、適切なケアと治療で症状の改善・コントロールが可能です。「むくみだから仕方ない」と諦めずにぜひご相談ください。形成外科・緩和ケア科を中心とした専門チームが、患者さんの生活の質を少しでも向上できるよう全力でサポートいたします。

また、医療機関の方へ―

当院ではリンパ浮腫患者さんの受け入れと専門治療に力を入れております。保存療法指導から外科治療まで包括的に対応可能ですので、難治例や手術適応の患者さんがいらっしゃいましたらお気軽にご紹介ください。私たちの知見と技術を活かし、地域のリンパ浮腫患者さんのケア向上に貢献してまいります。
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