関西医科大学 形成外科学講座

Kansai Medical University, Dept. of Plastic and Reconstructive Surgery

巨大色素性母斑の治療について

巨大色素性母斑とは

色素性母斑(しきそせいぼはん)は、小さいものは「ほくろ」と呼ばれる茶色〜黒色のあざ(できもの)です。真皮の中に母斑細胞といわれる細胞が存在し、母斑細胞がメラニン色素を産生するために生じます。先天性巨大色素性母斑は産まれた時から存在する大きなほくろ(色素性母斑)で、大人になったときに直径20cm以上(乳児期では体幹で6cm、頭部・顔面では9cm以上)のものを巨大と定義することが多いです。この大きさ以上では、悪性黒色腫(ひふの癌)が数%程度で発生することが報告されており、また、中枢神経(脳や脊髄)にも病変があることがあります。
最近では、母斑の大きさ(40cm以上、60cm以上)と、付随する小さな母斑の数(20個以上など)を指標として悪性化する確率を推定する分類も報告されています。

巨大色素性母斑の治療

 巨大色素性母斑の治療は、手術で母斑を完全に切除することが原則です。完全に母斑を切除できれば悪性黒色腫の発生もなくなります。数回に分けて切除する分割切除術や組織拡張器(シリコンでできたバック)を皮下に埋入し、数ヶ月かけて皮膚を拡張させた皮膚を用いて再建を行う方法、患者さんの皮膚を採取し移植する植皮手術がよく行われます。また、人工皮膚(二層性人工真皮)を皮膚移植に併用することもあります。これらの方法では、手術の身体的負担、母斑切除部の長いきずあと、皮膚を採取した部分にきずあとがのこる、などの問題があります。また、体表の数10%以上といった特に大きな母斑ではそもそも完全に切除してしまうことは困難です。
 母斑を完全は切除できませんが、1歳程度までであれば、器械をもちいて母斑の表面を削り取るキュレッテージという手術もあります。キュレッテージは症例毎に削り取れる層が異なるので、効果がある症例と効果がみられない症例があります。手術以外の治療としてレーザー治療がありますが、レーザーは色素を破壊する方法なので再発することが多く、母斑細胞を完全に取り除くことは困難です。特に獣毛性母斑という毛の多い母斑では再発することが多いです。悪性黒色腫の発生について、これらのキュレッテージやレーザー治療などを行うことで、発生頻度が上昇した、という報告はありません。母斑細胞をゼロにすることはできなくても、母斑細胞の数を減らすことで悪性黒色腫の発生を抑制していると考えています。

自家培養表皮を用いた新規治療

 切手代の皮膚から、体全体を覆うことができるくらい大きな表皮を作る培養技術を用いて作製される自家培養表皮(ジェイス®、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)が平成21年から重症熱傷に保険適用され臨床応用されてきました。この自家培養表皮が、平成28年12月に巨大色素性母斑にも保険適用となり、母斑治療にも使えるようになりました。当院ではいち早くこの治療を開始しています。自家培養表皮については以下のサイトをご覧ください。
 培養皮膚だけでは母斑を完全に切り取ったあとの創を閉じることはできません。キュレッテージやレーザー治療だけでは再発してしまうこともあり、再発を防ごうとして強く治療を行うと傷が治らなくなることもあります。自家培養表皮をうまく使えば、それぞれの治療の問題点を補う治療となると考えています。

臨床研究「高圧処理により不活化した母斑組織の再移植と自家培養表皮を用いた色素性母斑に対する新規皮膚再生治療法」について

 これは母斑組織を切除せずに、不活化処理(細胞をすべて死滅処理)し、真皮再生に再利用する新しい治療法です。自家培養表皮は真皮がない部分には生着しない、という問題点を克服するために国立循環器病研究センター研究所、大阪工業大学、京都大学と共同で開発しました。平成28年2月から開始し、10例の患者さんを対象に治療の安全性と有効性を確認する臨床研究を実施しています。詳細は添付PDFをご覧ください。平成29年9月現在、10例目まで患者さんのエントリーが終了しました。
 平成30年2月より、移植方法を一部変更し、先進医療申請に向けた次の段階の臨床研究を開始しました。移植方法の変更については添付PDFをご覧ください。これらの研究は、国からの研究費助成(日本医療開発機構:革新的がん医療実用化事業)をうけて実施しています。平成31年2月にこの臨床の登録が終了します。今後は高圧処理の保険収載を目指す臨床研究(治験もしくは先進医療)の準備に入ります。次の臨床研究の開始は平成32年前半の開始を目標としています。

皮膚の再生医療について

 再生医療はiPS細胞の登場もあり、近年注目を集めています。皮膚の再生医療は最も古くから臨床応用された分野であり、他人の皮膚移植(同種皮膚移植)は1950年代から、自家培養表皮は1970年代に、二層性人工真皮は1990年代に開発されています。しかし、残念ながら完全な皮膚再生は未だに不可能です。私は皮膚再生研究を20年近く行っており、培養皮膚、薬剤徐放性新規人工真皮の開発を行ってきました。少しずつですが、皮膚再生の鍵は見つかってきています。治療は様々な技術を組み合わせることで進歩することが多く、皮膚再生も、自家培養表皮などの細胞、人工真皮、細胞成長因子(薬剤)、高圧処理(物理的工学処理)などの新規技術を組み合わせて今後も発展すると考えています。
色素性母斑の治療は、大きさや部位によって様々な方法が考えられますので、十分相談させていただいてから治療に入ります。また、セカンドオピニオンとして相談していただくのも選択肢を考える上で非常によいと思います。まずは外来を受診され、ご相談ください。

森本尚樹(水曜日午前外来担当)
  • 外来予約等については関西医科大学附属病院(代表072-804-0101)までお問い合わせ下さい。
  • 森本ですが、2019年5月1日より京都大学医学部附属病院へ異動します。外来予約等については京都大学医学部附属病院代表(075-751-3111)までお問い合わせください。
     
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